Vol.1278 2025年6月28日 週刊あんばい一本勝負 No.1270

奥田英朗の新刊が、ついに出た!

6月21日 全五段ぶち抜きで、ついに出た! 奥田英朗の新刊『普天を我が手に』(講談社)だ。昭和史サーガ3部作と銘打たれ、これは第一部。2部は9月、3部は12月に刊行される。昭和元年生まれの4人の子供たちが、戦争から終戦、高度経済成長期の日本を歩んでいく。彼の本はすべて読んでいるのだ、このところ新刊のペースが遅い、と思っていたのだ。そうか3部作だったのか。近代日本の青春期を4人の個性的な主人公(陸軍少佐・ヤクザ・雑誌編集者・ジャズ演奏家)が、数奇な出会いと別れを繰り返しながら成長していく大型群像劇だ。早く読みたいが、今日アマゾンに注文すれば、届くのは明後日か。

6月22日 久しぶりに湯沢市に。10年ほど前、「R」というコーヒーの美味しい喫茶店が湯沢市にはあった。そこが廃業してから湯沢にはいかなくなってしまった。「R」という喫茶店は、中学の同級生がやっている店で、奥さんも同級生だ。そんな関係もあり用事がなくとも湯沢にはたびたび出かけていた。その喫茶店の2階に同級生夫婦の住居は今もある。懐かしさに負け、ノーアポでそこを訪ねた。幸いにも2人とも在宅で、あたたかく迎えてくれた。1時間半ほど積もる話をして満足して帰ってきた。それにしても、人の集まる場所としての「喫茶店」の存在の大きさを痛感した。それは同級生本人も感じていて、今もその喪失感を昔のお客さんたちから嘆かれるのだそうだ。日々暮らしていて喫茶店は、どうでもいい存在だ。でも湯沢の「R」に関しては、私自身もすさまじいほどの喪失感を覚えていた。「小さな文化」の目に見えない威力のようなもの、だ。

6月23日 昼はもっぱらお茶漬けだ。簡単に食べられるのがいい。ご飯はおにぎりにして冷凍してある。それに塩昆布や梅干し、漬物でササッとかっ込むだけ。栄養的にはどうなのか、健康にどんな影響があるのか、逆にいろいろ考えてしまうのだが、夜の食事は野菜を積極的に摂るようにしている。お茶漬けはすぐに腹がくちくなるのもいい。冷たいうどんもすすりたいのだが、今のところはお茶漬けで満足だ。

6月24日 夜はノンアルが当たり前になった。酒を口にしないことに何の痛痒もない。お酒がおいしいと感じなくなった。特に日本酒の味はまったくわからない。そのノンアル状態、もう1年以上になるのだが、反動なのだろうか、やたら甘いものを欲しがるようになった。間食の頻度が高くなり、それも甘ものばかり求めてしまうのだ。酒を飲まないからこれぐらいは、と大目に見ていたが、明らかにそのためにデブりつつある。洋服サイズが合わなくなり、山に登れなくなるのは避けたい。それには甘ものをセーブするしかない。そうか、ノンアルにもこんな落とし穴があったのか。

6月25日 明日から天気は崩れそう、とのことで今日もフトン干し。風も強そうなので、布団が飛ばされないようオモシが必要だ。2階の書斎や寝室をいろいろ物色するが、重しになりそうなものは何もない。結論は「広辞苑」に落ち着いた。辞書を布団の「重し」にするとは、と本好きには軽蔑されそうだが、ないのだからしょうがない。辞書を「重し」にしようと思ったのは、昨夜見たテレビドラマ『舟を編む』の影響もあるかも。再放送だが、主演の池田エライザが、これで大好きになったほど面白いドラマだった。原作も読んだが、こちらはあまり感心せず、テレビのほうが圧倒的に面白かった。

6月26日 夏になると毎年サッカー生地に感謝。シャツも寝間着もサッカー生地の服のお世話になっている。素材は綿で、昔から「しじら織り」と呼ばれていた。明治時代から夏の着物や寝具に使われてきた。通気性がよく軽くて放湿性がある。なんでサッカーというんだろうと調べたら、ヒンドゥー語だった。やっぱり暑い国だもんね。ザラザラ、デコボコな生地なので「砂糖とミルク」を意味する言葉なのだそうだ。これもなんとなくわかるなあ。収縮率の違うたて糸を組み合わせて平織りして仕上げに縮ませて凹凸を出した生地が、私の夏の希望だ。

6月27日 この10日間で3回歯医者さんのお世話になった。さすが3回目は寡黙な歯医者さんも苦笑していた。原因ははっきりしている。硬いせんべいを食べたせいだ。もう硬いせんべいは口にしていない。歯って意外ともろいものなのだ。小さいころから歯に関してはコンプレックスの塊で、歯医者が一番嫌いだった。それが50台からは「好きな場所」にかわった。「痛くない」のがいい。チクッとくるときは事前に知らせてくれるし麻酔もある。若いころ、年を取るのは怖くなかったが、歯だけは不安だった。入れ歯をしている自分がくっきりイメージできた。どうやらこの年になって入れ歯とは無縁で死ねそうだが、まだ油断大敵か。

(あ)

No.1270

いとしきもの
(文春文庫)
小川糸
 今日も雨。毎日、体温調整が難しく体調を崩しそうで不安だ。散歩の後のつかれもひどい。この体力で山はとても無理だ。かといって筋トレを始めると、てきめんに疲労度は増す。こんな時は、ほっこりする本でも読んで、いやされたい、と女学生みたいなことを考えてしまった。たまたま新聞広告でみたこの本のカバー写真が素敵だった。カラー写真をいっぱいつかったエッセイは内容が薄い、というのが定番だが、この本はちょっと違うな、と直感でわかった。文庫の書下ろしフォトエッセイだ。人生の先行きに悩んだ彼女が、八ヶ岳の森と出会い、車の免許を取得し、山小屋を建て、大好きな器やアートに囲まれて、シンプルな暮らしを実践するまでを綴ったエッセイだ。やわらかで自然に溶け込みそうな、あわいトーンの写真も好感が持てる。でもカメラマンの名前がどこにもない。奥付に一言、「文藝春秋写真部員」の名前が書いてあった。そうか写真も内製化したわけか。写真にリキミや自己主張がないわけか。サブタイトルには「森、山小屋、暮らしの道具」とある。彼女のベストセラーになった数々の小説は、ほとんど読んだことがない。ベルリンで暮らした日々を描いたエッセイを読んだ記憶があるが、さらりと読んで、さらりと忘れてしまう。こんな本もたまにはいい。

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