Vol.1294 2025年10月18日 | ![]() |
少年とガリガリ君メロン味 | |
10月11日 「走線」という言葉を初めて聞いた。NHKスペシャル「死に向かって生きる〜アメリカを目指す中国人"走線者"」はすごい番組だった。中国共産党に批判的な人たちが国を出て、ビザを必要としない南米エクアドルからジャングルの中を数千キロ歩き続け、アメリカに亡命する人たちのことを指す言葉だ。中国共産党に反愛国者として目を付けられた人がほとんどで、その逃避者の数は23年以降だけでも6万人以上にのぼるという。命がけでアメリカにたどり着いても、そこから今度は亡命申請の裁判が待っている。トランプ体制になり亡命が認められる率は下がる一方だ。強制帰国になれば待っているのは地獄。帰国を避けるために自殺を選んだものまでいる。危険な逃避行の前に立ちはだかる大国の壁と、運命の判決を前に揺れ動く走線者たちに密着したドキュメンタリーだ。冒頭、習近平もトランプも同じだ、と吐き出す走線者の叫びが心に突き刺さる。小舟に乗ってアフリカからヨーロッパに向かう難民たちのドキュメンタリーは見たことがあるが、中国人のアメリカ亡命のドキュメントは初めてだ。こんな現実があったのか。
10月12日 昨日の新聞で「あれっ」と思う記事があった。読書欄隅の「ベストセラー日販・文庫=7日調べ」というやつだ。一位は例の「国宝」だが、3位に凪良ゆう「汝、星のごとく」が入っている。愛し合う高校生の20年を追った実に感動的な小説だったが、もう4,5年前にヒットした本のはず。文庫本がようやく出た、ということなのかしら。何か唐突に昔のベストセラーが出てきたような意外感があったのだ。文庫になるにしてもずいぶん時間がかかっている。この本なら文庫本もヒットまちがいなしだろう。新聞は毎日新聞をとっている。連載の「松尾貴史のちょっと違和感」が面白い。まだ購読を初めて1か月だが、切り抜きが多くなってきた。なじんできた証拠である。 10月13日 山に登るようになって「花の名前」に少しだけ詳しくなった。先日、東京に行ったおりも街路樹にハナミズキの木がやたらと多いのに気が付いた。調べたら「木の成長が遅く、しょっちゅう手入れをしなくて済むから」という理由なのだそうだ。ハナミズキは一青窈の歌で有名になったが、桜のかわりにアメリカから贈られた外来種だ。あちらでは犬の皮膚病に利用するので「ドッグウッド」と呼ばれている。山で見つけると大騒ぎになるのが「ザゼンソウ」だ。確かにこれまで2,3度しか見たことはない。これも外来種のようで、アメリカでは「スカンク・キャベツ」と呼ばれている。匂いが嫌なのだろうか。庭には「イヌノフグリ」が咲いている。この命名の由来も、もとをただせば外国の名前を直訳したせい、とある本に書いていた。「ヘクソカズラ」というのもすごいが、花の命名にはそれぞれの命名の事情や理由がある。 10月14日 満を持して奥田英朗『普天を我が手に』第二部を読み始めた。600ページ近い長編だが、読み始めると途中で止まらなくなる。ある程度時間が確保でき、重要なスケジュールのない時期でないと読みだせない。1日3時間取れれば1週間で楽に読み通せるのだが、そううまくはいかない。あまりの面白さに夜を徹して6,7時間読み続ける可能性が大きい。昨夜はウォーミングアップのつもりで1時間、前半部を第一部のおさらいで読みだした。予想通り、途中でやめるのがつらくなった。第三部の刊行は12月17日、早く読んでしまえば続編まで1か月以上待たなければならない。たった7日間しかなかった昭和元年に生まれた4人が、互いの運命を交差させながら昭和という時代を生きていく物語だ。第二部は敗戦、占領、抑留の真っただ中からスタートする。もういきなり面白すぎる。誰か私を止めてくれ。 10月15日 図書館で調べものの帰り、向かいのコンビニでガリガリ君メロン味を買った。これは広面地区では売ってないやつだ。アイス売り場に小学1、2年生ぐらいの小さな男の子がいて「……それ旨いよね」と小さな声でつぶやいた。セルフレジを済ませ帰ろうとすると、後ろに並んでいたその男の子が、背の高いレジに必死で手を伸ばしていた。買い物ははがき大の菓子袋ひとつ。ひとりで買い物に来たようだ。そのセルフレジと格闘する姿があまりにかわいかったので、「これ食べて」とガリガリ君メロン味を1本差し出した。少年はポカンとしていたが、店員のおばさんから「あら良かったわね」と声をかけられると、一気に表情が緩んだ。ピップホップ系のファッションをした、おしゃれなちびっこだ。駐車場で車に乗り込むと、コンビニ入り口から「ありがとうございました」と、ガリガリ君片手に深くお辞儀をするちびっこが見えた。家に帰ってから、親から万引きを疑われたりしないだろうか、と少し心配になったが、あの少年ならきっと自分の言葉で説明できるはずだ。わずか100円ほどのプレゼントだったが、穏やかで平和な気分にさせてくれた彼に、逆に感謝したい気持ちになった。 10月16日 会社用と個人用のクレジットカードが両方使えなくなった。外国で不正使用の「跡」が確認されたので、クレジット会社が急きょ使用をストップ、新しいカードを作ることになったのだ。アジアのどこかの国で1ドル相当の金額が不正使用された、という疑いである。先日は東京の書店(一棚書店)で「現金は使えません」と本が買えなかった。スマホは持っていないし、ペイペイも使わない。カードもスマホも使えないとなると本当にお手上げだ。困っていたら友人のFさんから「JRのスイカもっているでしょう、あれ一枚あれば、新しく作る必要なし」とアドヴァイスされた。鉄道のカードで本もコーヒーも日常品も買えるのだ。現金をチャージするだけだから安全だ。よし、もうカードはスイカ一本でいこう。 10月17日 昨夜は雨が降っていたので散歩は中止。月に1、2度こうしたケースがある。散歩がなくなるとテキメンに夜の眠りが浅くなる。昨夜は何度も起きて、湧き出してくるいろんな雑念やアイデアをメモし、それを繰り返しているうち、夜が明けた。眠らなければ明日の仕事にさしつかえる、という切羽詰まった状況とは無縁だが、寝不足の朝はやはりいまいち気分はすぐれない。遅くまで寝ていても誰にも叱られたりしないのだが、やはり定時には起きて、いつも通り仕事に行く。体がそのようにセットされている。悲しいような嬉しいような複雑な気持ちだ。仕事場に入るとやることは山盛りだ。何をやらないか、を決めるのがスムースに事を運ぶ要諦だ。夜は1時間、飴をしゃぶるように奥田英朗『普天を我が手に』第2部を読む。もう3分の2あたりまで読み終えた。第3部の発売まで、この愉しみをなんとしても引き延ばしたいのだが、難しいかも。 (あ)
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