Vol.1283 2025年8月2日 | ![]() |
暑中お見舞い申し上げます | |
7月26日 今日の新聞に「日帰りもできる気軽な山歩きが人気」という記事が出ていた。「山歩き」は日帰りや「午前仕事」が常識で、こちらにとっては、どこかに泊まってまで山に登るのは、山歩きではなく「旅行」だろう、と半畳のひとつも入れたくなった。山も「歩くこと」(日常)の延長に過ぎないのだ。それと気になったのが、山歩きに関する横文字の横行だ。山道を走るのが「トレイルラン」で、軽装で山道を歩くのが「ファストハイク」、遊歩道などをつないで長距離を歩くのが「ロングトレイル」だ。最近読みたいと思って買った本の書名が「ウルトラライトハイキング」というのだから、どうしようもない。江戸期に日本各地を歩いた旅人は多くいたが、彼らのほとんどは目的を持った「歩く」だ。治安が保障されて初めて歩く行為は労働から快楽に代わった。「歩く」ことを自分から取り上げられたら、何を楽しみに生きていけるだろう。
7月27日 暇なときは録画しているテレビを見る。最近は映画よりもかなりの頻度で「NHK高校講座」のお世話になっている。20分で終わるのがいい。一番は「歴史総合」で、つぎに「世界史」「日本史」と続く。意外にも「物理」や「生物」「美術」も好きで、よく見ている。70を超えた今だから楽しめる「趣味」で、高校生の時には嫌で嫌でしょうがないことばかりだ。この年になっても、新しいことを覚えると、だれかれとなく自慢したくなる。 7月28日 身体がうまく暑さに慣れたせいなのか、夜はよく眠れるし、食欲は旺盛、快食快便だ。暑さのピークが過ぎたあたりを狙って、駅前まで散歩する。散歩の前に家に帰ってTシャツに着替えるのだが、帰るころにはシャツはびしょぬれ、もう一回着替えなければならない。一日三回服を替えているのだ。びしょぬれのシャツを着替えるたび、体調がいいのはこの汗のせい、と思う。真夏に一日一回、すごい量の汗をかくのが身体に悪いわけはない。その分の水分を補給すればいいだけの話。夏を乗り切るコツは汗をかくこと、のような気がする。 7月29日 夕方の散歩から帰って事務所でゆったりTVナイター。というのが長年のジジイの楽しみだったが、この頃ほとんどプロ野球に興味がうせてしまった。スピード感のない試合運びにイライラ、イニングが変わるたびにチャンネルを回してしまう。といってサッカーも、何を勘違いしているのかチャラい若者ばかりで、うんざりする。バレーボールは巨人たちの肉体密度が濃すぎて暑苦しい。マラソンが一番好きだが、駅伝は監督がうるさすぎる。あ、そうか、一番嫌いなスポーツは高校野球だった。これはもう何十年も見ていない。ジジイに似合っているのは、やっぱり相撲観戦といったあたりに落ち着いてしまう。 7月30日 仕事が一段落、ホッとしている。その仕事の内容に関しても書きたいのだが、相手のいることなので、まだケーソツに公表できない。仕事が一段落しても「さあ、ゆっくり休みをとろう」という流れに行かないのが、最近のジジイの大問題だ。仕事以外やりたいことが、ないのだ。この暑さなので山は危険だ。体力が不安なので遠出は不安だ。お酒の力を借りるリフレッシュには興味ない。となると、いつものインドア暮らしに勝るものはない。読みたい本、見たい映画、取材したいテーマ……これらがあれば、もう満足な日々が暮らせる安上がりの体質なのだ。 7月31日 佐野眞一『旅する巨人』を読んでいたら、興味深い記述に当たった。アチック・ミュージアム彙報の一冊として出版された吉田三郎著『男鹿寒風山麓農民手記』についてだ。佐野は「貧しい出稼ぎ人の吉田が、東京で煙突掃除人の仕事をしていて、たまたま渋沢亭を訪ね、そこから交流が生まれ、名著が生まれた」と実にドラマチックにその場面を書いている。これは面白い本の「生まれ方」だなあ、と感激し、とりあえず吉田の原典(「日本常民生活資料叢書第9巻」を取り寄せてみると、事実はまるで違っていた。もともとは農村教育家・大西伍一が、吉田の暮らしぶりに興味を持ち、日々の記録を勧め、その出来上がった記録を渋沢敬三に推薦し出版のパトロンになってもらった、というのが事実だ(大西自身が本の序文にそう書いている)。大宅賞を獲ったベストセラー作家でさえ、こんな「見てきたようなつくり話をする」。 8月1日 「ビッグニュース」だ、数か月に一度、町内会のごみ置き場の消毒清掃の順番が回ってくる。今回も来たのだが、掃除用具の中に「消毒液」がない。いやはやこれは困った。さっそく班長さんの家に「消毒液が切れてますけど、新しいものどこでもらえばいいですか」と訊きに行ったら、「もう消毒はしません。消毒液の匂いが苦手な人や子供がのんでしまう危険があるので、消毒液を使わない清掃になりました」とのこと。そういえば10年程前、けっこう楽しみにしていた町内会の下水溝清掃が「専門業者に任せることになりました」と中止になった。町内では若手で体力自慢の私の役割は、重いコンクリートのふたを持ち上げる仕事。私でなくてはできない役目と自負していたのだが、これもなくなりガックリ。世の中はこうして「進歩」していくのか。 (あ)
|
●vol.1279 7月5日号 | ●vol.1280 7月12日号 | ●vol.1281 7月19日号 | ●vol.1282 7月26日号 |