Vol.1308 2026年1月24日 週刊あんばい一本勝負 No.1300

病院通いのユーウツな日々

1月17日 毎日新聞県版に日本酒の記事。美郷町にある栗林酒造店を取材したものだが、作り手側の酒に対する真摯な向き合い方が伝わってくる、中身の濃い、よく調べて書かれた記事だ。「町の風味を宿した酒を造ることが社会に対する私の貢献」という酒蔵代表者の言葉も、実直で好感が持てる。この酒蔵の「春霞」は私も好きな酒だ。この町には上水道がない。地下水が豊富だからだ。ミネラル分が少ない軟水なので、発酵はゆっくり進む。大きなタンクは上下左右で温度が違い、発酵のムラができる。そこで酒造りをすべてサイズダウンした。搾りたての酒は理屈抜きにおいしい。なのに大きなタンクに貯蔵すると、出荷するころには新酒とまったく違う味になってしまう。新酒らしいおいしさを保ちながら出荷するにはダウンサイズしかない。なんだか無性に春霞が飲みたくなってしまった。

1月18日 新聞は「ラ・テ欄」から読む。あまりテレビを観たくないから良質なドキュメンタリーや映画、好きな番組だけは録画しておくためだ。ラ・テ欄をチェックした新聞はその後、役立ちそうな記事を切り抜き、その日の食事(ランチ)のテーブル用下敷きになって捨てられる。こんなふうに毎日役に立っているから新聞購読料を高いと思ったことはない。逆に新聞がなくなったら困ることばかりだ。

1月19日 降圧剤を服むことになった。人間ドックから3日後の今日、近所のかかりつけ医に相談して、決断した。処方されたのはアムロジピン2.5mgという薬だ。実は今日も病院入り口前で転倒した。アイスバーンになっていたのに気が付かなかったのだが、こうも転びやすくなっている自分が不甲斐なく、落ち込んでしまった。その精神的なダメージも加わり、先生の言うことを聞くことにしたのだ。先日の人間ドッグで高血圧の原因が肥満と関係があるといわれ、この2年で4キロも体重が増えている事実を突きつけられた。うなだれるしかない。

1月20日 17年にアメリカで制作された映画『ゲット・アウト』を観た。黒人差別を描いたミステリー・ホラー映画で実によくできたエンタメ映画だ。細部を見逃すと大筋の意味が分からなくなる。アメリカのエリート白人社会では、こんな荒唐無稽なことまで本気で考え実践してしまうのか、とショックも受けた。このホラー映画、いろんな「裏」が仕込まれている。催眠術の道具である「紅茶」や、暗示を防ぐための耳栓が「綿」だったりするのは、黒人が奴隷として連れてこられた原因である営農作物だ。「能力の高い黒人」という人種の逆讃歌にもなっているのがミソで、黒人差別問題の映画では『グリーンブック』が有名だが、この作品もそれに並ぶインパクトのある映画だった。

1月21日 転倒による手首の痛みがようやく薄れてきた。あとは血圧が下がってくれれば言うことはない。体の調子がよくないと、考えることがずんずんとネガティブになっていく。昔はよく旅(外)に出てリフレッシュしたものだが、いまは外に出る気がしない。年のせいにするのは簡単だが、どうもそれだけではないような気がする。原稿を書いたり、調べ物をしたり、本を読んだり、映画を観たり、料理をしたり……そんなもので鬱屈は一時的にうっちゃることができるが、長続きはしない。リフレッシュの一番は散歩だが雪道は転倒のリスクが高く、それもままならない。自由に散歩できないのが、もしかすると鬱屈の最大の理由かも。

1月22日 雪は降り続けているが、メディアで報じられているほどでもない。ここ数日でどうなるかは、わからない。考えてみれば、湯沢市から大学に入るために秋田市に移り住むようになって屋根の雪下ろしをした経験は、たった一度しかない。確か90年代に一度あったきりだ。雪下ろしをしなくてすむ秋田市に「同じ秋田とは思えない」と正直驚いたものだ。大学の掲示板に「雪下ろしアルバイト」なる求人があった時も「雪下ろしがお金になる」という現実に実感が伴わず混乱した。この程度の雪ならと鷹揚に構えているのは、こうした少年時代の豪雪地帯の記憶が残っているせいだ。子どもにとっても、あの雪下ろしというのは重労働だった。

1月23日 2年ほど前から、朝は「ノニオ」というマウスウオッシュで口をすすいでいる。友人から口臭がする、と注意されたのがきっかけだ。このノニオは口腔ケアのために開発されたものだ。うがいするようになって、確かに口臭を意識することが少なくなった。肉やアルコールで腸内発生した臭気ガスは血流にのり肺から放出される。これは歯磨きでは防御出来ない。人と会う機会はめっきり減ったが、やはり口臭防止は最低限のエチッケトだ。

(あ)

No.1300

白鯨
(富田彬訳・角川文庫)
メルヴィル
 上下2巻本の3分の2まで読み進めたところで、途中放棄してしまった。アメリカから出航した捕鯨船のなかで乗組員たちが繰り広げる波乱万丈の物語を期待したのだが、あくまで主人公は「鯨」だった。生態から捕鯨の歴史、生物学的うんちくが延々と続き、いつまでたっても、さまざまな人種で構成された乗組員の「壮絶な航海」のドラマが始まらない。多様な象徴にあふれた叙事詩的海洋冒険巨編が目の前に現れてこない。リアルな人間同士の葛藤が希薄で、物語はなかなか前に進まない。どうにか500ページ近い上巻を読了し、たぶん下巻は面白くなるぞと期待満々だったが、上巻よりもトーンは下降し、相変わらず鯨の尾や骨格、頭や鯨油の歴史、専門的な鯨話に終始するばかり。読み残した3分の1でたぶん、捕鯨船は目標である白鯨を発見し、常識を超えた巨大海獣との熾烈な戦いがくりひろげられる展開なのだろうが、その前段階で刀折れ矢尽きてしまった。海洋冒険小説の古典的名作だそうだが、冒険より形而上的な「叙事詩」に重きを置いた難しい物語だった。このへんが自分のリテラシーの限界なのかもしれない。

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